山の古別荘のDIY記

達観

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 達観(たっかん)とは
 ①細かい事にこだわらず,物事の本質を見通すこと。
 ②広い視野で物事を見ること。全体を見渡すこと。
 ③物事に超然として,悟りの心境に達すること。









 本題の前に・・・

 個人が所有する住宅で、日常の住まいとする家を「本宅」と言い、それ以外に利用する所有住宅を「別宅」、又は、「セカンドハウス」と私たちは呼んでいます。

 この別宅が海辺や山の中にあって、休暇や余暇を過ごすような場所だと「別荘」と微妙に呼称が変わります。
 海辺なら海の家、山の中なら山荘と言ったりもします。








 日頃、友人や知人の会話などで、「別荘に行ってくるから。」とか「山荘を持ってるんだ。」なんて言葉を発すると、たちまち、
 「え~っ!?別荘なんか持ってるのか!!」「すげえ!お金持ちじゃないか!!」
 と、驚かれ、羨望のまなざしで見られ、うらやましがられ。
 最終的には、

 「おまえはいいよな。なんせ別荘オーナーだから。 ここの飲み屋の勘定は払ってくれよな。」

 などと嫉妬に包まれた呪いの言葉を浴びせられる。(;´Д`)



 そんなことを言う知人の中には、タワーマンションの上階に住んでいたり、中古でフェラーリ買ったり、鉄オタで年がら年中電車乗り回していたり、生活や趣味に大金つぎ込んでいる者もいるのですが・・・


 「いや、違うんだ。 そんな豪華な物じゃないんだ。 わずか車1台分の値段で手に入れたんだ。」
 とか言い訳を小声で呟いても耳も貸して貰えず。

 「いや、オレ達の嗜好と、オマエの趣味は異なる。 別次元だ!(゚Д゚)!!」

 と、贅沢の極みを尽くしているような悪者にまで仕立て上げられる場合があります。。・゚・(つД`)・゚・




 購入当初の山の家。 樹木と藪に阻まれて全景を撮影することすら出来なかった。




 「別荘」という文字が持つイメージは、人々の心の中にテレビ番組に出てくる有名芸能人や、大金持ちが所有するような絢爛豪華で、最上級のステータスである豪華住宅を思い起こさせてしまうんですね。

 実際に私が持つ山の家はどうかと言うと、そんな豪華な住宅の片鱗も見られません。




 対面の尾根から撮影した山の家。(大規模修繕前)
 こうして見ると、すごい急斜面に建っているように見えるが、決して山寺のような立地ではない。



 で、何て言えばわかって貰えるかな。 どう言えば溶け込みやすいかな。などと考えて思いついた固有名詞が、


 「山小屋」


 「山小屋を手直ししに行かなきゃいけないんだよ。」「週末は山小屋ですごすんだ。」
 と、会話の端にのせれば、あ~ら不思議。
 豪華なイメージも、きれいな建物のイメージも、頭の中から消えてしまいます。


 「え?オマエ山の中に掘っ立て小屋でも建てたのか?」「週末アルバイトでもしてるのか?」

 と、知人の反応が180度変わります。



 以後、私はこの山の家のことを山小屋と呼ぶようにしています。










 この記事の本題に入ります。
 山小屋のことやDIYの事ではないので、番外記事としました。


 これは先日、釣り場で巡り会った実話です。



 私の趣味は幾つかあって、魚釣り、写真撮影を兼ねての名所旧跡探訪。
 この二つのアウトドアフィールドでの活動がメインで好んで行っています。
 住宅のリフォームは趣味ではないですよ~。

 で、今の春から初夏にかけてのシーズンは釣りがメイン。
 この時期がエサ取りの小物が少なく、コンスタントに良型魚がゲット出来る時期だからです。


 この季節に通っている釣り場は大阪湾の堤防。
 堺市の石油コンビナートの埋め立て地の外縁のテトラ帯です。







 上の写真の手前から約300mほど、テトラポッドが乱雑に組まれており規則性がありません。
 たいへん足場が悪いのでその分釣り人が少なくて、釣り荒れしていないせいかクロダイの良型がよく釣れます。
 とある条件が重なったときによく釣れるのですが、それはナイショ。Oo。.(^。^)y-~


 今の時期の釣り方は「前打ち」と言う技法をやっておりまして、餌はテトラの水際に付いているイガイ。
 クロダイしか釣れない釣り方で、テトラ際の底を探りながら延々と歩いて行く釣り方です。


 正午が干潮のピークで潮が満ちてくる夕まずめ時を狙おうと、午後2時間という遅い時間に到着。
 竿を出して数投目から餌を突いてくるという、魚の活性が高い状況でした。

 釣り始めから10分もしないうちにもう1匹ゲット!
 約40センチほどの良型を上げます。




 キャッチ&リリースでこの後放流しました。




 ふと、横を振り返ると誰もいなかったテトラ帯に一人の釣り人が30mほど離れて、同じスタイルの釣りをしています。
 テトラ帯を探りながら歩いて行く釣りですから、その人も等間隔で歩いて来ます。

 しばらくして、仕掛けに不具合が出たので直している間に、その人は私を追い越していきました。
 20mほど前方でその人は少し小型のキビレ(尾の端が黄色いクロダイ)をゲット!

 その人はお持ち帰りするために、魚を持ってこちらに歩いてきます。


 「こんにちは~!今日は食いがいいですね~。」
 「う~ん、いい日に来たよ。 ちょっと小さいけどなあ。 お兄ちゃんさっきいい型釣ったねえ。」
 「ああ、40センチほどありました。レギュラーサイズです。(°∀°)」
 「オレなあ、四日市から来たんだよ。」
 「えっ!!遠征ですか!!Σ(゜д゜;) 」
 「うん、今日は4人で来た。 年に一度か二度、ここに来るんよ。」


 三重県や愛知県には伊勢湾がありますが、経済成長時代の長い汚染のために魚の数は激減。
 大阪湾は瀬戸内海と紀伊水道という二方向の水の出入り口があったため汚染からの回復が早く、それに加えて数十年前には、クロダイ、マダイ、石鯛の幼魚などを毎年数万匹単位で放流してきたので、「チヌの海」と言われるほど魚影が濃く、中京地方の釣り人達のあこがれの釣り場なのです。
 東海地方からの遠征組は不思議でも何でもありません。


 「車で4時間ほどかかったよ。」
 「それはお疲れ様です。 いい日に当たったようですよ。」

 そんな会話を交わしました。







 その後、私はアタリはあるもののちっとも針にかかってくれず、餌を囓られるだけで1匹も釣れず。
 四日市の方は2匹ほど釣り上げていました。


 再びその方とテトラの上ですれ違ったときに、また会話を交わします。

 「小物ばっかりだよ。」
 「なかなか針に乗りませんね~。」
 「お兄さんはどこから来たの?」
 「え?ああ、大阪ですよ。地元です。」
 「ところでワシ幾つに見える?」
 「う~ん。50ぐらいですか?
 「70過ぎてるよ。(゚∀゚)」
 「ええ~っ!!(〇o〇;)」

 この方、最新の釣りスタイルをして、サングラスかけてましたからすごく若く見えました。
 どう見ても同い年ぐらい。

 そう言えばお仲間と思える他の方を見ると、白髭を蓄えたご年配の方がお一人いらっしゃる。


 「すごくお若く見えますね~。」
 「はははっ! でも、遠征はさすがに疲れるね。」
 「いやあ、この足場の悪いテトラをひょいひょい歩いてられるから、てっきり同年代かと思ってました。」


 「これでもガンなんだよ。」


 「はあ~~~っ???」Σ( ̄д ̄ノ)ノ


 どこをどう見てもガン患者には見えません。
 それどころか健康そのもの。
 一瞬からかわれているのかと思いました。


 「抗がん剤飲んでるよ。(*゚∀゚)」
 「え?え?え? ああ、それじゃあ早期発見されたんですね~。 どこのガンですか?」
 「十二指腸ガンだよ。」
 「え~と、じゃあステージ2ぐらい? 手術でもう切り取ったとか。」
 「いやいや、薬の治療だけだよ。 既にリンパに回っていてね。」
 「・・・・・・(絶句)」
 「医者はあと3年から5年だとか言ってた。」
 「だ、だいじょうぶなんですか!?」
 「年だからね、進行が遅いらしい。 平気よお。(*^^*)」


 とニコニコ笑いながら釣った魚を仕舞うために歩いて行きます。

 再び釣り糸を垂れて釣りを開始しましたが、頭の中は四日市の方のことでいっぱい。



 今はネットであらゆる病気の症状や経過が簡単にわかるようになった時代ですから、この方もこれからどういう病状を辿って、最後に行き着くところを学んでいるはず。

 今や日本人の1/3がガンが原因で寿命を迎える時代。
 どんなに節制しても、どんなに健康的な暮らしをしていても、望むと望まざるに関わらず、不意に襲ってきて生命を終わらせる病気の一つ。
 病巣が見つかった時には元気な状態でも、病の進行と抗ガン治療の副作用のせいで、どんどん命の火を奪われていく。
 今は元気でも1年後にはベッドで寝て、起きられない状態かもしれない。
 進行が止まってくれることをただ願うだけ。


 医者に余命を宣告されて、これから迎えるであろう病との格闘を前にする気持ちという物は、どんな心境に陥るのだろう。


 ああ、そうか・・・・
 既に悟られているのか。
 達観か。

 残りの短い時間を今のうちにと言うことか。



 もし、自分がその人と同じ立場に立ったなら、どんな反応を示すだろう。
 日頃は、「いつ死んでもいい。苦しまなければいい。」なんて嘯いているが、いざ、自分自身が終焉の予告をされたならば、その口っぷりを続けることが出来るだろうか?

 オレもあと10年か20年、いや、早けりゃ明日にでも・・・・










 時間が経過してすっかり夕暮れが迫りました。
 この日は結局最初の1匹だけで、最後までアタリはあるものの追加出来ませんでした。


 糸を切り、竿を仕舞い、クーラーボックスから飲み物を取り出して一息つきます。
 ちょうどその時、四日市の方が前を通過して、

 「お兄さんもうお終いかい?」
 「ええ、今日はこれで帰ります。」
 「もうちょっとだけ頑張るよ。」

 「ああ、そうそう。 ここに来るのは1年に1度か2度って言ってられましたよね。」
 「うん、今年はもう1回来られるかな~?」
 「来年のこの時期にまたお会いできるかもしれませんね~。(°∀°)」
 「・・・、ん!そうだね。 雨じゃなけりゃ、またこの時期に来るだろうね。(^^)」

 「じゃあ、また来年!(*゚∀゚)」
 「おうっ!また来年な!!ヽ(^▽^)」


 私は影が長く伸びてきた堤防の上を車の方へ歩いていきました。





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