山の古別荘のDIY記

不動産売却時の罠

★目次ページに戻る

 不動産業というと町の仲介不動産屋さんが一番最初に頭に浮かびます。
 主に不動産の売買、仲介を生業としています。
 不動産業には仲介業以外に、建物管理をする管理業がありそれが私の仕事。
 不動産業界の中には様々な分野が存在がありますが、普通の方にはあまり縁が無いのが「不動産ファンド」と呼ばれる分野の企業。

 不動産ファンドというのは、複数の投資家から資金を募って建物物件を購入し、維持管理しながら家賃収入を得て高い利息を付けて投資家に還元するのが主な業務。
 株式ファンドや投資信託の不動産版です。

 ただ、昨今は入居率が安定しなかったり、家賃相場が下落しがちなので、家賃収入が安定的に得られないので高利回りの還元が難しくなってきています。
 建物の売買・転売などで大きな利益を上げるのも、不動産ファンドの仕事の一つ。

 こういう土地建物の取り引きの現場では、宅地建物取引免許を持ない、通称『不動産ブローカー』と呼ばれる方々も現れ活躍します。
 景気が大きく移り変わり土地や建物の売買が盛んになる際に派手に動き回る。
 不動産コンサルタントという肩書きの人もいたり、中には”や”の付く商売の人がやっていたりもします。f(^ー^;

 

*写真と本文の内容は関係がありません。


 最近では、例のスルガ銀行-スマートデイズの投資用不動産取り引きの現場で、複数の業者が間に入り「中抜き」が横行していたと言う報道がありましたが、この間に入っている業者の何軒かは不動産ブローカーだろうなと推察しています。


 で、この不動産ファンドやブローカーは、建物物件を投資家に売りつける時だけ動くのではありません。
投資用物件として買い取る時にも活動します。

 くだんの「カボチャの馬車」などにまつわる物件を購入したオーナーの中には、資金が回らなくなったり債務の返済が滞ったりして破産の危機に陥っているオーナーさんも数多くおられるでしょう。
 当たり前ですねえ。
 普通の物件より悪い条件の物件なんですから。
 行政の指導や裁判などで債務返済にSTOPがかからない限り、借金返済の履行は待ったなしです。

 投資オーナーの中にはこれ以上悪化しないうちに、少々損をしてもいいから物件を速やかに処分してしまいたいと考えているオーナーが少なからずいるはずです。
 そこに目を付けて転売で収益を得るファンドやブローカーが暗躍するのは当然のなりゆき。
 彼らの腕の見せ所です。

 

 今回の話は、私自身10年以上前に実際に不動産売却で不動産ファンドと呼ばれる企業と接した時のお話し。
 実話ですが、「そんなの信じられない」「作り話だろ」と思われても結構です。

 

 今から10数年前、時はリーマンショックが全世界を駆け巡り始めた時。
 私の家庭に破産の危機が訪れたことがありました。
 金融機関への借金が数億円にものぼり、私自身幾つかの債務に対して連帯保証を取られておりGiveUp寸前。
 毎月毎月、返済しなければいけない借金に追い立てられる状態になり、先々代が築いた財産の一部を売却しお金に換えてこの危機を乗り切ることになりました。

 今回は文中に『億』というお金の単位がポンポン出てきます。
 普通のご家庭では一生かかって稼げるかどうかと言うような金額。
 私も山と積まれた現金の実物など手に取って見たこともありません。

 不動産取り引きのような大きな価値のある物の売買の現場では、実際に現金が目の前に積まれることはありません。
 金融機関の応接室で、ただ単に通帳に記載された数字が一行二行と増えたり減ったりしていくだけです。

 

写真と本分とは何の関係もありません。


 土地建物の所有というと雲の上のお金持ちだけの世界だと思われています。
 ところが、外からは資産家と言われる私ですが、お金持ちと思ったことはないです。
 所有している高額な土地建物は「預かり物」としか思っていません。

 実際に借金の担保という物に縛られていて、一部を分割して売ったり、付け加えたりすることが不可能な物で、所有者としての自由は全くありません。
 金融機関にお金が返せなくなれば没収。
 税金が払えなくなればお上に取り上げられてしまう非常に不安定な物でもあるからです。


 投資用の大きな不動産の入手は庶民には無縁の物だ、と、錯覚しがちなのですが、チャンスがあればどのような方にも誰にでも手に入れることが出来る物です。
 それが証拠に、先日のスルガ銀行の例では、年収600万円、700万円というちょっと収入の多い方々、公務員や上場企業などに長年勤めておられている方々などが、数千万、果ては億越えという金額の不動産を、投資用という名目で大都会の土地建物が簡単に購入出来ています。
 しかも1例や2例というごく少ない数ではなく、数百・数千例という規模で。
 (もっとも、今回のスルガ銀行の例はメチャクチャな設定でしたが・・・)

 不動産というのはその土地や建物に充分な価値があれば、ローンという形で金融機関がぽんとお金を出してくれて、所有する人がどんな人であれたやすく入手出来るのです。
 ただそこには「担保」と言う縛りがあり、ローンが返せなければ没収という条件が付くだけです。

 億とかいう数字の現金を実際に見ることはありません。
 ただ頭上を数字が飛び交うだけです。
 数百万円する自動車をローンという形で購入するのと何ら違わないのです。

 もちろん、金融機関が納得するだけの物件を手に入れることが出来る、というチャンスに恵まれなければいけません。


 土地建物を売ってあげようという所有者、その分のお金を貸してあげようという金融機関、そこで収益を上げていこうという貴方の決断力と行動力と計画。
 この3つが揃えば10億であろうが20億であろうが、大都会であろうが広大な山林であろうが、簡単に入手出来るのです。

 不動産の価値が景気の変動や需給のバランスが崩れることで大きく値を下げてしまい、崩壊しきったその時に入手出来るチャンスが幾つも出てくるでしょう。
 野望をお持ちの方はその機会を逃さずに。(^◇^;)

 但し、入手するのと、その物件を維持管理し続けるのとは全く問題が違っていて、大きなリスクが伴うので安易な考えで臨める物ではありませんが。

 

*写真と本分とは何の関係もありません。

 

 話が逸れてしまいました。
 本題に入ります。


 私が背中に背負ってしまった借金の総額は数億円にものぼりました。
 それら全てが一族の誰かに個人保証を取られており、それぞれが所有する土地建物などに担保が設定されています。
 毎月の返済だけでも数百万円。
 このままでは1年と経たないうちに破綻するのは目に見えていました。
 一族個人個人の負担を減らすために、個人の連帯保証や担保設定から逃れるためには借金を返済するしかありません。


 一族の運営する会社が所有している物件の一つを売却処分することになりました。
 大阪の一等地。
 投資用物件として最適な雑居ビル。
 売却額、売り出し値は3億円(税別)。
 資産評価としてはそれぐらいの金額です。
 速やかに売却したかったのですが、値下げ交渉は必ず有るという想定で少しだけ高めの値段設定です。


 さすがに相場より少しだけ高いので、見に来る投資家はいるもののなかなか核心の売買交渉に入らない。
 2億ちょうどなら買うよとか、2億2千万(税込み諸経費込み)ならどうだ!?とかいう話はありますが、あまりにも売却希望価格と離れているのでお話しにならない。

 1ヶ月経ち、2ヶ月経ち、少し焦ってきた頃に、具体的な売買交渉に入りたいと申し入れがありました。
 専任の仲介業者の説明によると相手は小さいながらも不動産ファンドの企業。
 転売目的か自社経営かわかりませんが、こちらとしたら売れればどんな人間が買おうが文句はない。
 消費税1千万円分ほど安い2億9千万円(税別)にしてくれたら買う!という申し出なので、それなら話は早いと私はOKを出しました。

 先方の企業は、

 会社での購入なので銀行の融資の申し込みをする。
 融資が下りるかどうか結果が出るのが2週間ぐらいかかるので、それまで本契約は待って欲しい。
 手付け金として1千万円を即金で支払う。
 それまで仮契約書を取り交わしておく。
 この立地でこの物件なら銀行は大丈夫だろう。

 という話。

 売買が成立しなかった場合には違約金など発生しない形での取り決めです。
 高額な物件を取り引きする時によくあるケースです。
 この条件なら売っても構わないと思い、銀行口座に手付け金が振り込まれたのを確認して仮契約に判子を押しました。
 優先の買い手が現れたので物件の買い手募集は停止しします。

 多額の債務を抱えている私にとって、救われたような気持ちでした。

 

 それから10日ほど経過した時、仲介業者から連絡が入りました。

 「先方の銀行が融資を渋っている。 4千万少ない2億5千万にしてくれと言ってきたよ。」
 「はあ?何言うてまんの! 2億9千万で契約してるやん。」
 「あれは仮契約なので売買価格は後からでも決められます。 違約金も発生しない条文になっている。」
 「いや、それやったら売りまへん。 先方にそう言ってください。」
 「わかりました。」

それから数分後、再び仲介業者からの連絡。

 「値下げに応じられへんねんやったらキャンセルやって言うてますよ。」
 「かまへんよ。キャンセルに応じるわ!」
 「手付けの1千万円すぐに返せって言ってるけど・・・。」
 「ああ、返すよ。 今日は無理な時間やから明日の朝一番に銀行から出してくる。」

 そのあと、お金の返却方法の打ち合わせがあり、翌日の朝一番に金融機関の窓口で落ち合って即金で返すと言うことが決まりました。
 銀行に連絡して、明日朝に大口の出金があるから窓口で用意しておいて欲しいと連絡を入れ、翌日の朝にすぐに引き出してファンドの連中に返却しました。
 不動産の処分はまた最初に戻ってしまったのです。(>ω<)

 


 一度販売停止になった物件。
 契約がお流れになった印象がついて回ることになったせいか、内覧の申し込みが途絶えてしまいました。
 いわゆる「ケチが付いた」という状態です。
 これはまずいことになったと非常に焦ったのです。


 建物の売却に関して、専任仲介を2軒の業者に依頼していました。

 仮契約で一度募集が停止してしまっていたので、もう1軒の方の社長さんに、頭を下げて申し込みに行きました。

 「すんません。 契約が流れてしまいました。 引き続き買い手の募集をお願いします。m(_ _)mペコ」


 その際、その業者の社長さんが語ってくれたのは・・・

*写真と本分とは何の関係もありません。

 

 「それはね、不動産ファンドの手口や。」
 「あいつら、見せ金で一旦相手の希望価格に近い金額で買うようなそぶりを見せるのよ。 ぜひともその金額で売ってくれって言う感じでね。」
 「で、手付け金をすぐに振り込んでくるわけ。 しばらくしたらこっちが飲めないような金額の値下げ交渉してきよる。」
 「その時、金に困っているオーナーやったら借金返済や生活資金に一部使とる場合が多いんよ。 で、値下げ金額が飲まれへんかったらキャンセルや、手付け金すぐ返せ!耳を揃えて返せ!って迫ってくるわけ。」
 「手付け金使ってしもとるオーナーは、泣く泣く渋々値下げ金額飲まざるをえん状況に追い込まれて大損する。」
 「ファンドは、今度はゆっくりと買い手探して相場価格で誰かに売ってしこたま儲けよるんよ。 で、その時は仲介手数料もせしめるから売りと買いで二重に儲けようとするの。」
 「もりよんさん、手付け金に手を付けなかったのは正解やね。(°∀°)」


 この話を聞いて、ああ、そうだったんだ!と思い当たる点が幾つも思い起こされました。

 図面も設備もろくろく見ずに内覧すらせず、建築許可の書類の確認をしただけで買うと申し込んでくるまで異様に早かったこと。
 普通は建物に瑕疵が無いかどうか、入居状況や家賃など収益面で購入金額に見合う物件かどうかなどを、入念に問い合わせてくるのだけど、そう言うことが一切無かった。
 仮契約時に、絶対に大丈夫、売買は必ず成立するからと終始安心感を持たせるような感じだったこと。
 キャンセルとなった時に一気に対応が豹変したこと。
 銀行の窓口ロビーで手付け金をぽんと返した時、不機嫌そうにいつまでも同僚とひそひそと話していたこと。
 (普通受け取って中身を確認したらすぐに帰るよな。)

 

 これは一例に過ぎず、ファンドやブローカー連中は、何とかして安く売らせようと様々な手段を用いるケースもあります。

 売買契約が流れるというのは買い手側に「何かある物件だな。」と警戒感を持たれてしまうので極力避けねばならないのです。
 3回も売買保留が繰り返されれば、もうその物件を買おうという買い手すら現れなくなるでしょう。
 そこで、わざと仮契約-お流れという行為を繰り返して物件の評判を落としていきます。

 また、売買に待ったがかかるわけですから、こういうことを繰り返されると何ヶ月も無駄な時間を費やすことになります。
 その間に債務返済に苦しんでいる所有者はどんどん窮地に立たされることになっていき、最後には安く売らざるを得ない状況に追い込まれるという例もあります。

 業界用語では、「囲い込み」「物干し」と呼ばれる悪質な手法などを使って、様々なやり方で自分たちの有利な方へ誘導していきます。


 バブルの時は地上げ屋が話題になりましたね。
 売る気もない土地オーナーに、様々な手段、違法スレスレの手段を用いて強引に売却させた、という実例を記憶にある方多いでしょう。
 大きなお金が絡むと、何でもやる人間が沸いてくるんですよ。

 

*写真と本分とは何の関係もありません。


 私の売却物件は運良くこの1ヶ月後に希望価格満額で購入してくれるオーナーさんが現れ無事売買が済み、二件目の専任業者の社長さんが仲介手数料を儲けることになりました。

 売却代金をそっくりそのまま懐に入れるわけではありません。
 納める税金分だけを残して、あちらの借金を返済、こちらの借金を片付け、そしてそれぞれの個人保証や抵当権を解除していきます。
 私が保証人になっている案件は後回しにして、叔父さんやら両親らの連帯債務から片付けます。
 全額使い切っても数億円の借金が残っていました。

 手元に残ったのは0円!! (ノД`)・゚・


 一番大きい金額だったメインの債務と、返済に緊急を要するややこしい債務が片付いたのは助かった。
 少しばかり時間的余裕が出来たのでした。

 でも、残った分の借金返済で再び首を絞められていきます。
 資産売却でまだまだ辛酸を舐めていきます。
 その話はまたの機会に。
 (ちなみに、二軒の業者さんとは今でも仲良く取り引きをしています。)

 

 それから数ヶ月ほど経過して、くだんの社長さんと話をする機会がありました。

 「最近、仲介の仕事少のうなって参りますわ。 家賃下がって手数料も下がるから軒数こなさんと儲けになりまへん。」
 「社長さん、去年うちのビルの売却で手数料ようけ入りましたやんか。(-。-;)」
 「何言うてまんねん。 間にようけぶら下がっとるから、そいつらと分け分けしたからそれほど残りまへんでしたがな。(´ヘ`;) 」
 「そうやったんですか!・・・( ̄▽ ̄;)」

 なんと、こっちも裏側ではブローカーみたいなのが間に複数いたようなのでした。


 大きな金額の取り引きが進行すると、その噂を聞きつけていろんな輩が集まってきます。
 不動産の売買は取り扱う金額が大きいので、手数料も自然と巨額になります。
 たった数日走り回って、契約時に数時間立ち会うだけで、一度に数百万、数千万円というお金が転がり込むことが往々にしてあります。

 社長さんの場合、売買代金3億円ですから、約1千万円ほどが仲介手数料になります。
 それに目を付けた普段交際のある仲の良い業者などが社長さんの元にやって来ます。

 「お前だけが大もうけするのはけしからん! 少しぐらい分け前をよこせ! 俺とお前の仲じゃないか。 頼む!少しだけ分けてくれ! 助けて!お願い!!(;´Д`)ノ 」

 社長さんとしては分けるのは嫌だけど、今後のつきあいという物がある。
 下手にケチると終生恨まれるかもしれない。(なんせ殺人事件も起きるようなケースもあるぐらいですから。)
 恩を売っておくのも悪くはないと考え、あちらに幾らこちらに幾らと、中間業者という態にして分けていたとのことでした。
 ウソかホントか知らないけどね。

 まだまだドロドロがうごめいているこの業界です。

 

 ネットを検索すると「買う時」の注意点はゴロゴロ出てきます。
 投資詐欺の見破り方、とか、賢い物件選び業者選びとか。
 「売る時」の注意点が記述された物は数少ないですがちゃんとあります。
 どうしても資産を処分(相続などで)しなければならなくなったら、一度はそういうサイトに目を通しておいた方が良いですよ。


 *この記事は2019年1月にブログに掲載した内容を編集して転載した記事です。

★目次ページに戻る

▲このページのトップへ



トップページに戻る