趣味の沼の回顧録

ドラマは身近で起こる

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 毎年、夏場はテトラ帯で前打ちというスタイルの釣りを行う。
 ターゲットとする魚はチヌ(黒鯛)。

 



 だいたい午後2時過ぎに堤防を降り立ち、夕方6時頃までの3~4時間の釣り。
 熱中症に陥らないように極めて短時間の釣行。
 身長より高い堤防をうんこら乗り越えて、テトラの上をよたよた歩き、目的の場所にクーラーバッグを下ろした時点でもう汗だく。
  
 足下がコンクリートの突起だらけなので下半身保護のため半ズボンとかサンダルは履けない。
 平らな堤防上だともっと涼しい格好するんだけどね。
 きつい日差しと照り返しであっと言う間に体温は上昇し、体の露出した場所に日焼け止めを塗りたくってもじりじりと焦がされる。
 テトラ帯を歩き、登り、時には飛び移ったりして常に魚を求めて移動していく釣り方だが、足場が悪い上に、右手に竿、左手にエサカゴを提げているので、上体と脚だけでバランスを取るので著しく体力を消耗する。
 気温が高い時は長時間釣りをしているとフラフラになる。



 キビレ。
 尾びれや腹びれの先端が黄色いのが特徴。
 生態はクロダイとほぼ同じだが全く別の種族。
 西日本に多い。



 海を渡ってくる風は堤防の内側よりも冷たく涼しいので町中などより耐えられるが、体調が思わしくない時は水分補給のタイミングを間違えると事故につながりかねない。

 こんな風に書くと大げさに聞こえるが、実際熱中症は突然やってくる。
 水分補給をしようとクーラーバッグに辿り着いた途端にめまいに襲われたことは数度。
 500mlのアクエリアスなんて一気飲みだぜ。(゚Д゚)
 釣りが終わって車に乗った途端に軽い頭痛と言う時もあった。

 年を取ってきたのでますます注意しなきゃ。





 
 ある日の堤防での釣りの物語です。


 今年は朝晩が涼しくて気温差が激しいせいか、堤防際に付着するイガイの生育がはなはだ悪い。
 餌は現地調達が基本だが、アテが外れて入手出来ないのでエサ屋へ寄り道しなきゃいけない。

 購入するのは岩ガニ20匹。
 たった3時間少々の釣りなのでこれで充分なのだけど、エサ取りのフグなんかが出てくるとこれでは足りなくなる。
 無くなったら終了というつもりで釣りを始める。





 釣り場について海の状況を確認する。
 しばらく晴天が続いたので海はスケスケで透明度が高い。
 こういう状況の時は苦戦を強いられる。

 案の定、釣り開始からしばらくしてかかった1匹目は針がかりが甘かったらしく、かけてすぐにすっぽ抜け。
 とにかく透明度が高いと魚の警戒心が薄れていないので、エサをしっかりと食い込んでくれないのだ。






 気を取り直してエサのカニを付け直して仕掛けを放り込む。
 数投目で微妙なアタリ。
 仕掛けを上げるとカニが噛み砕かれていた。
 魚の食い気が悪いというわけでもなくて、活性はすこぶる高いよう。
 潰れたカニを海に捨て、次のカニを付ける。



 噛み潰されたカニ。
 違和感を感じるとすぐに口を離してしまう。



 数投ごとにアタリがある。
 だがどうしても針にきちんとかかってくれない。(T_T)
 既にバラした魚は4匹を超える。
 エサのカニはどんどん減ってくる。

 針のかかり具合が悪くてフトコロ(針の曲がった部分)が伸ばされるようなので、号数を変えて強度のある針に変えてみる。


 来た!かかった!

 しばらく魚の引きと格闘する。
 しばらくと言ってもほんの10秒ぐらい。

 ふっと竿が軽くなった。

 またもやバラシ!!


 ぶらんと上がってきた仕掛けを「クソッ!」というつぶやきと同時に思いっきり海に叩き付ける。

 空を見上げて悔しさを噛みしめる。








 魚を驚かせて、この場を荒らしてしまったためすぐに次のテトラへと移っていく。

 それから何度も魚をかけるがどれもこれも途中で針ハズレ。


 その後・・・


 何と、10連続バラシ!! (゚Д゚;)・・


 さすがに参ってしまった。



 カニの残りはあと4匹ほど。
 時計を見ると午後5時を少し回ったところ。
 時合いというやつが過ぎ去ったのか、不意に魚の食いがぱたりと止んで、ただ竿を上下しながら歩いて行くのが続くようになる。

 今日はもしかしたら坊主のまま終わってしまうんじゃないだろうか、と言う思いが頭の片隅をよぎり焦りが襲ってくる。







 針に刺したカニは、何度も何度も水中へ放り込まれていくと、次第に動かなくなり息絶えてしまう。
 3匹のカニがそうやって交換されていき、アタリの無いまま最後のカニを使うことになった。

 時間は午後6時前。

 日没までまだ1時間以上あるが、周囲は次第に夕方の気配に包まれてくる。
 西日にきらめく海面の反射で、竿先と糸ふけが見辛くなってくる。
 本来なら片付けて帰宅する頃合いだけど、と時計が6時を回ってもなかなかやめられない。
 これが最後の一投!と仕掛けを入れ、海面下の見えないテトラの穴を探る。


 瞬間、くんっ!と微かに竿先が叩かれる。
 一呼吸置いて竿をしゃくり上げてアワセを入れる。

 かかった!

 来たっ!これが最後。頼むから外れないでくれ!!


 心の中でそう祈って魚の引きに耐える。
 すぐに海面に姿を現したのは約25センチほどの小型のキビレ。
 針は外れることなく、ようやくタモに魚体をすくうことが出来た。




 写真を撮り、針を外してすぐさま海へ帰してやる。
 目標にはほど遠い小さな魚だったが、今日はこれで満足出来た。

 時は結果を残してくれた。
 あきらめず、捨てずに粘った者に祝福が与えられた。


 作り話のような、まるで絵に描いたようなドラマティックな終演。
 こう言うことがあるから釣りはやめられない。

 大自然と海に来られたことに感謝して、堤防の上に這い上がった。










 落とし込み釣りや前打ち釣りでは『カニ桶』と言う餌箱を持ち歩きます。





 ウエストバックのベルトに取り付ける餌箱を利用する方もおられますが、堤防の落とし込み師は圧倒的にこのカニ桶を持って歩いています。

 カニ桶はたいてい木製で蓋はほぼ開放されていて通気が良く、エサと少量の海水を入れておくだけで、気化熱を利用して内部の温度を一定に保つ効果があります。
 生きたカニや採取したイガイを活かしたまま長持ちさせるのに優れています。
 真夏ですとさすがに内部の温度が上昇しますので、時折海水などを入れ替えて温度を保つようにします。

 
 私の物は、20年近く前にとある釣具店の片隅に手作り品として売られてあったのを見つけた物で、どこにも見かけたことのない製品です。
 従来の市販の物より軽量で板厚が薄く熱を逃がしやすいのか、炎天下で太陽熱にあぶられても釣りの途中で海水を補充したようなことがありません。
 接着剤と釘だけで作られてあるのに、よくあるカニ桶のように不思議とバラバラにもならず、腐りもせず、長年愛用しています。
 購入当初は水漏れして困った。(;^_^A 今は補修済み。


 市販のカニ桶では満足せず、自作される方が多くおられます。
 唯一無二の自分だけのオリジナル品で個性を出されています。


 片手に竿、もう片手にカニ桶、背中に大きなタモ。
 落とし込み師の独特なスタイルです。





 今まで閑散としていた堤防上に、このシルエットがずらっと並ぶと、「ああ、もう夏だな。」と言う思いに包まれます。
 帰ったらビールがうまいぜ!!(゚∀゚)




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